森をつくる

2024年9月「森と草原のリトリート」ナビゲーター養成講座を開催しました①

峰の原高原の森林の恵みを活用していくための団体「Forest Field MINENOHARA(フォレストフィールド峰の原:以下FFM)」では、森林の恵みを活用して健康づくりを促進する「森と草原のリトリート」の提供を予定しています。

「森と草原のリトリート」では、峰の原高原の自然環境を生かし、森林の中で五感を取り戻す森林セラピー体験や、適度な心拍数を保ちながら運動する健康ウオーキングなどを実施することで、病気になる前に自らの健康状態と向き合う”未病”の段階でのプログラムを作成中です。

7月には「森と草原のリトリート」のプログラムに触れてもらう体験会を開催し、計25名の方にご参加いただきました。

【体験会の様子は、下記のレポートをご覧ください】
《1日目》2024年度7月「森と草原のリトリート」体験会を開催しました①
《2日目》2024年度7月「森と草原のリトリート」体験会を開催しました②

さらに興味を持ってくださった方や、近隣地域で健康づくりに取り組みたい方の中から、「森と草原のリトリート」での案内人:ナビゲーターとして活躍したい方を募集し、9月~10月の4日間にかけて、ナビゲーター養成講座を開催しています。

本記事では、ナビゲーター養成講座1日目にフォーカスし、どのようなことを学んだのか、そしてこれからどのようなプログラムを提供していくかのアイデアをご紹介します。

「森と草原のリトリート」ナビゲーター養成講座
開催日:9/14(土)~15(日)、10/19(土)~20(日) の4日間
場所:峰の原高原のペンション「時空の杜」
参加者:ナビゲーター希望者17名

   

ナビゲーター養成講座1日目 (9/14)

◆森林浴・森林ウオーキング

「生活習慣病・認知症予防等に寄与する森林浴・森林ウォーキング~高地環境での運動効果を活かす」
講師:住友 和弘氏
(東北医科薬科大学 若林病院 総合診療科科長 病院教授/旭川医科大学 内科学講座 循環呼吸神経病態内科学分野・地域医療再生フロンティア研究室 客員教授)

東北医科薬科大学 若林病院で医師として勤務されている住友先生からは、森林の中で運動することや森林浴によって、生活習慣病の改善にどのような影響がみられるかをお教えいただきました。

森林の中には、植物が発散している物質「フィトンチッド」があり、その香りには人を癒す効果があることがわかっています。
フィトンチッドの香りを嗅ぐことで副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが整うのです。

住友先生は高血圧を患っている方々と森林ウオーキングを定期的に行い、ウオーキングの前後でストレス値や心拍等を計測。
すると、ウオーキングを行った方は歩く前よりも血圧が下がり、継続することで高血圧の方も減少したのだそうです。

また、認知症の方にも森林ウオーキングを継続してもらったところ、認知機能や意欲に改善が見られ、抑うつの改善にも影響を与えていることがわかりました。

森林ウオーキングを定期的に継続することで、生活習慣病や認知症の改善・予防につながる。
日本各地の森林でそのような実験結果が出ており、峰の原高原でも市民の健康維持や高齢者の健康改善にも役立てられるのではないか、ということが見えてきました。

また、午後は実習として簡単に取り入れられるワークショップを実践。
ひとりひとり、自分の好きな空間に寝そべり、樹間を眺めます


寝転がってみると、木々はお互いの枝葉を重ねることなく、ほどよい距離感を保っていることがわかります。

そのまま枝がさわさわと鳴る音、風の気持ちよさ、緑の香りを感じながら、森と一体になりましょう。
たった10分間森の中に寝そべるだけでも、リラックス効果が得られます

運動が難しい方や、森へ行くことに抵抗がある方でも気軽に取り入れられるので、今後のプログラムでもぜひ活用していきたいと思います。

また、講座の間は、やまぼうし自然学校のベジさんがこどもたちの自然体験プログラムを担当してくれました。
木の枝を使ってえんぴつを作ったり、手作りのボールで野球をしたり、こどもたちも楽しそうです。

今後は、教育プロジェクトの参加メンバーとも協力し、ガイドを目指す方やツアー参加者のお子様の自然体験プログラムも検討しています。

   

◆クアオルト健康ウオーキング

「クアオルト健康ウオーキングとその指導法」
講師:大城 孝幸氏
(日本クアオルト研究所 代表取締役/ドイツ気候療法士)

続いて、ドイツで医療保険としても活用されている「クアオルト」について学びました。

ドイツでは病気にかかったとき、投薬や手術をするか、クアオルトで自然療法をするか、ホメオパシー※をするか、国民に選択肢が与えられています。
(※体の自然な治癒力を引き出すために、病気の症状を引き起こす物質を非常に薄めて使う療法)

クアオルトを選ぶと、保養公園・病院・温泉施設などがそろっている療養地で、「適度な運動」を取り入れながらゆっくりと過ごすことができるのです。
主に心筋梗塞や狭心症の方のリハビリ、高血圧、骨粗しょう症、メンタルヘルスなどの治療に利用されています。

この「適度な運動」には、下記の2つを意識することが大切だと言われています。

① 「160-年齢」の心拍数を目指す
② 体表面温度を2度低くする

ウオーキングの前には必ず体調チェックシートを記入し、その時の心拍数を図ります。
「160-年齢」の心拍数を意識することで、その日その時の体調に合わせて無理をしない運動が可能になります。

また、がんばらない・ほどよい運動強度によって、生活習慣病の予防やメンタルヘルスにも良い影響が与えられることが判明しています。

チェックシートの記入が完了したら、ウオーキングへ。
歩く前にはヨガの呼吸法や、「ねじる・開く」動作を取り入れたストレッチを入念に行います。

今回歩いたコースは「緋の滝(ひのたき)遊歩道」
スタート地点から大きな高低差がなく、2kmほどの距離をゆっくりと周遊することができるコースです。

ところどころ立ち止まっては、大城さんの呼びかけで心拍数を図ります
15秒間脈をとり、4倍して1分間の心拍数を計算します。

また、森の中は市街地よりも気温が低いので、その特性を利用し、体表面温度が下がっているかどうかも確認しながら歩き進めます。
袖をまくる、上着を脱ぐなど、衣服での調整も有効です。

心拍数をあげるために、大きな声で「ヤッホ!」と叫ぶことも。

歩き終わった後は、再度心拍数を測り、チェックシートに記入します。

激しい運動ではないからこそ、参加者の皆さまからは下記のような感想があがりました。

・『心拍数を測るため、数値が見える化されて、「このくらいのペースだと心拍がこうなる」というのがわかりやすい』

・『自分にベストな運動強度の負荷量を調整しながら歩くことが大切。体表面の温度の計測など、実感しやすい形で示しながら、理論的にも説明していくことが大事だと感じた』

・『正しい身体の動かし方で確かな健康効果を得ることができるとわかった』

そして今後、「森と草原のリトリート」で健康ウオーキングの概念を取り入れる際に忘れてはならないのが、「健康の方程式」
適度に運動するだけでは健康を維持するのには不十分で、バランスの取れた食事十分な睡眠も欠かせない、という考え方です。

引用:日本クアオルト研究所

さらに、峰の原高原でのプログラムづくりに置いて大切なのが、4つめの要素です。
「ここでしか体験できないこと」「峰の原高原の特性を生かしたPRポイントになるもの」を組み合わせることで、市民の健康づくりの一助となるプログラムになっていきます。

  • 運動だけではなく、食事や睡眠のサポートをするためにどのようなアプローチができるのか?
  • 峰の原高原ならではの魅力を生かしたプログラムにするにはどうしたらいいのか?

養成講座の受講生の皆さんと一緒に、考えていきます。

   

◆森林医学

「森林医学とエビデンス」
講師:高山範理(のりまさ) 氏
(森林環境の研究者/(国研)森林機構森林総合研究所チーム長(森林空間利用推進担当))

1日目の最後は、森林医学とエビデンス。
森林浴がなぜ良いと言われてきたのか
また、日本や世界各地の研究がどのように始まり、現在どのようなエビデンス(根拠・裏付け)があるのか、学びました。

日本で「森林浴」という概念が誕生したのは1982年のこと。
林野庁が「○○浴」と呼ばれるものに森林をあてはめ、森の中で過ごすことを提唱したことが始まりでした。

その後、なぜ森林浴が心地よいのか、各地で研究が行われ、その裏付けを基に「森林セラピー」が誕生
全国64カ所に森林セラピー基地・ロードが発足し、科学的根拠を基盤にした健康促進の動きが推進されていきました。

さまざまな指標でエビデンスが発表されていますが、有名なものは主に以下の3つです。

①NK細胞の活性化
ガン予防に効果があるNK(ナチュラルキラー)細胞が、森林浴後に活性化する

②うつ病の予防効果
90分間の森林浴で脳活動が改善し、うつ病の予防効果がある

③心理調査
幸福感や不安感、人生の満足度などの心理調査票に取り組んでもらうと、森林浴体験後によい効果が得られた

これらの研究は世界各地で行われており、その実験内容や結果を知っておくことで、これから森林浴を体験してもらう人にわかりやすくその効果を伝えることができます。

  • 「気分がすっきりする」→なぜなのか?
  • 「生活習慣病の予防につながる」→なぜなのか?

今後のプログラムを案内する際は、しっかりと個々人がエビデンスを理解し、参加してくださる企業や個人の方に説明を行うことが重要であると言えます。

エビデンスと実体験、どちらも体感してもらえるプログラムをつくり、「森と草原のリトリート」をきっかけに、森に足を運ぶ大切さを伝えていきたいです。

>>2日目:9/15のレポートへ続く

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