森をつくる

【第2回】森づくりラボ:きたもっく・東急リゾーツ&ステイの先進事例を学ぶ

峰の原高原で目指す森づくりの方向性を検討するため、2024年3月13日に「森づくりラボ」第2回目のキックオフ・ラボを開催しました。

今回のラボの目的は、高齢化や衰退が進んでいる別荘地において「森林サービス産業×森づくり」の仕組みをつくり、産業や関係人口の創出を実現した先進事例を学ぶことです。

北軽井沢のキャンプ場で自然にかかわるさまざまな産業を生み出した「きたもっく」の土屋さん、蓼科の別荘地をリニューアルし、利用者を増やした「東急リゾーツ&ステイ」の徳田さんから、それぞれの事例について教えていただきました。

講師:土屋 慶一郎 氏((有)きたもっく フィールド事業部長・事業戦略室)
講師:徳田 圭太 氏(東急リゾーツ&ステイ㈱ 資産企画統括部 資産管理部長)

日時2024年3月13日(水)14:30~18:00
※夕食・交流会[希望者]:18:30~20:30
会場集合場所:ムツラの家(長野県須坂市仁礼峰の原3153-575)
夕食・交流会:ペンションスタートライン(長野県須坂市大字仁礼3153-885)

第1回目のキックオフ・ラボについては、下記のレポートをご確認ください。
>>「森づくりラボ」キック・オフ開催

「きたもっく」の先進事例を学ぶ

「北軽井沢の自然の恵みを多くの方に知ってもらいたい」という想いからスタートした、きたもっく。現在はキャンプ場のみならず、自然にかかわるさまざまな産業・サービスを提供しています。

理想的な森の活用をしているきたもっくの歴史と、現在に至るまでの経緯を教えていただきました。

「きたもっく」とは


(引用:きたもっくHP

群馬県長野原町北軽井沢にある地域未来創造企業。北軽井沢を中心にした浅間山山麓の地域の未来を、この地域を循環する産業を通じて作り出していきたいとの想いから、キャンプ場、企業研修施設、薪やはちみつづくりのサービスなど、2024年時点では9つの事業をメインに展開しています。

自然は人間がコントロールできないもの。だからこそ、人と自然のあるべき関係とは何かを考え、『Luomu(ルオム)』ーフィンランド語で「自然に従う生き方」を企業理念に掲げました。

キャンプ場「北軽井沢スウィートグラス」に訪れる人は年間約10万人。ただ自然と触れ合う場所としてではなく、コミュニティ創造や地域産業インフラの構築など、地域の未来を創造する会社として評価されています。

「きたもっく」の取り組み

最初はキャンプ場からスタートしたきたもっく。次第に「これもあったらいいんじゃないか」「こんなこともやってみよう」とサービスを展開していきました。アイデアが出たらメンバー同士で話し合い、「自分が主体でやりたい!」と手を挙げてくれた熱量のある人に勉強してもらいつつ、作り上げていくスタイルなのだそうです。

【経緯のまとめ】※一部抜粋

事業名始めた経緯
北軽井沢スウィートグラス雄大な浅間山を楽しむ場所としてキャンプ場をスタート
冬期のキャンプ受け入れ次第に規模が大きくなるが、仲間が足りない
→夏季のみだと雇用が安定しないので、冬キャンプをスタート
あさまストーブ夏キャンプ用の建物が寒いので、薪ストーブ施工をはじめる
あさまの薪ストーブを設置するだけではなく、薪も自分たちでつくろう
百蜜(ももみつ)森の価値は木材だけではない→養蜂事業に取り組む


きたもっくの各事業は、一つ一つ自分たちがやりたいことを実現した先に生まれてきました。目の前のことを愚直にやりながら点を打ち、それが次第に線になって、現在の事業展開にまでつながったのだそうです。

現在は企業研修の場として、宿泊型ミーティング施設「TAKIVIVA(タキビバ)」も展開。社内やリモート環境ではなかなかお互いの本音が話しづらい、という企業向けに、「たき火を囲むことで同じ方向を見つめ、本音で話したくなる場所」を提供しています。

事業展開での課題とその乗り越え方

きたもっくでは、北軽井沢の自然の魅力を伝えるために何が必要なのかを考え、ないものは自分たちの手でつくることを継続してきました。
一つ一つの課題と実直に向き合い、全力でそれを乗り越えようと努力されてきたからこそ、今の姿があるのだと思います。

【各事業での課題と乗り越え方】※一部抜粋

事業当初の課題どのように乗り越えたか、そこから得たこと
キャンプ場のはじまり・更地のため浅間山を見られる居場所がない・資金が足りない居場所を作るには木陰が必要と考え、手作業で植樹。3000本植えた内1500本が枯れたが、残り1500本が生き残ってくれた
キャンプ場の建物・5棟でスタートしたけれど、数が足りない前年に出た利益で、毎年1〜2棟ずつ地道に増やした。どんな建物なら喜んでもらえるか考え、自分たちでデザインしたことで、多様な宿泊棟が生まれ、リピーターさんを引きつける魅力に
薪ストーブの取付・夏キャンプ用の建物が寒い・施工依頼の資金が足りない自分たちでやることを大切にしていることもあり、宿泊しながら自分たちで施工。→施工するノウハウ、「火のある暮らし=豊か」だという気づきを得た→薪ストーブの施工販売業の立ち上げへ
薪づくり①・火のある暮らしを提唱しつつも、薪を作っていない・薪の含水率の調整をしたい自分たちで山を借りて、木を切るところから始めた。
→乾燥に時間がかかることに気づく
薪づくり②・乾燥に2冬ほどかかる・含水率の調整が難しい自分たちの山を購入し、間伐もスタート。薪ボイラーを導入し、薪の乾燥具合を研究
養蜂・木を育てるには時間がかかるので、従業員を養うための他の手段が必要木材以外に、山の草花が魅力だと考え養蜂をスタート。5箱から始まり、今シーズンは240個体制へ。


各事業の立ち上がりと乗り越え方を見ると「自分たちの手で始めるしかない」という状況だったからこそ、一から作り上げる大変さがわかったり、次の課題が見えてきたり…すべての事業がつながっていることがわかります。

最も印象に残ったのは、「出口から始めたからこそできている」ということ。
例えば、薪づくりや養蜂の事業ができるのは、薪やはちみつを使ってくれる場=キャンプ場が先に存在しているからこそできることです。出口となる三次産業のサービスから始めて、二次・一次産業も担っていく、という流れがあったから、今のきたもっくがあるのだと土屋さんは言います。

峰の原高原でも、例えば資金や人手が足りないという課題がありますが、まずは一つずつ点を打つことから始めることで、将来的に実を結ぶのかもしれません。

東急リゾーツ&ステイ「もりぐらし」の先進事例を学ぶ

宿泊施設やリゾート施設を全国に展開している東急リゾーツ&ステイ株式会社。なかでも、閉鎖的な別荘地だった「東急リゾートタウン蓼科(たてしな)」での「もりぐらし」事業が注目を集めています。企業としての取り組みと、今後の目指すべき姿を教えていただきました。

「もりぐらし」とは


(引用:東急リゾーツ&ステイHP

「東急リゾートタウン蓼科」で2017年から始まった森林活用の取り組み。東急リゾーツ&ステイ株式会社のSDGsブランドのひとつで、現在は全国に展開されています。

もりぐらしが始まったのは、長野県茅野市の北部にある蓼科高原の中。蓼科山、北横岳、白樺湖などの自然に囲まれた別荘地「東急リゾートタウン蓼科」でした。別荘地では、所有者の高齢化や森の管理が行き届いていないなどの問題を抱えていたそうです。

そんな中、2012年7月の集中豪雨で土砂災害が発生したことを機に、森林を健全化する必要性に気付きます。そこで、森林資源を「まもる」「つかう」「つなぐ」という3つのテーマを軸とした地域循環のサイクル「もりぐらし」が始まりました。

「もりぐらし」の取り組み


(引用:東急不動産プレスリリース

「東急リゾートタウン蓼科」のある森は、東京ドーム約140個分の広さです。その中に約2,400戸の別荘、ホテル、ゴルフ場、スキー場などが集まっています。
地域循環型の森づくりを目指し、下記の3つのサイクルで活動されています。

①まもる
それまで森の管理がされていなかったため、森林経営計画を立て、計画的に伐採を行った。光が差し込む美しい森林になり、かつ、土砂災害などの自然災害にも強い、しっかりと手入れされた森に。

②つかう
エリア内にあったゴルフ場の化石燃料ボイラーをバイオマスボイラーに変更。
間伐材を活用して作ったチップを使用し、CO2排出量を抑えることに成功した。

③つなぐ
リゾートエリアを大きくリニューアルし、「もりぐらしエリア」をタウン内の中央に据えた。
「森で食べる」「森と遊ぶ」「森に泊まる」をテーマに各施設をオープン。

森で食べるグラマラスダイニング
3つの施設を整備
①信州産カラマツを使った大きな屋根が特徴のBBQ施設②プライベート空間を保てるキャンプ場③シャワー・トイレ付のテントヴィラのあるリッチなグランピング施設
森と遊ぶフォレストアドベンチャー自然を活かしたアスレチック施設。
地元住民のお出かけスポットとしても話題に。
森に泊まるクラスベッソ昼は別荘の住宅展示場だが、夜はそこに宿泊できる。別荘のお試し体験がしたい方や、今の別荘の建替えをしたい方にも◎

→別荘の所有者以外でも気軽に来られる場所・リゾート地として認知されるようになった。
また、発信やプロモーションなどにも力を入れたことで全国的な認知度アップにも成功。

今後は、蓼科を中心に、八ヶ岳、諏訪、天竜川、そして太平洋までの地域全体をひとつのエリアとしてとらえてブランディングし、活動を広げていくそうです。脱炭素×循環型×生物多様性を主軸に、森が豊かになること、そして、その森をその地域の方の財産として守っていくことを目指しています。

事業展開での課題とその乗り越え方

もりぐらしは、別荘地内の森の整備をすることから始まりました。現在は企業として森林や自然にかかわる事業を推進している東急リゾーツ&ステイですが、2017年当時は徳田さんを中心に進める事業も多かったのだそうです。

すでにある別荘地や森林をどのように整備していったのか、課題や気づきをまとめました。

【各事業での課題と乗り越え方】※一部抜粋

事業当初の課題どのように乗り越えたか、そこから得たこと
森の手入れ①・まったく森の管理をしてこなかった利用できる補助金を見つけ、申請。270haの人工林のうち、毎年10haずつ間伐することで、樹木の総量は変わらないまま手入れができる計画を立てた。
森の手入れ②・別荘のオーナーの土地も手入れが必要森の整備の大切さを別荘のオーナーも理解していたので「森を守るための間伐を行うこと」「建物にかかる部分以外で対応すること」を1軒ずつ説明したら賛同いただけた。
木材のチップ化・間伐材が活用できていない・グループ会社内での循環トラック搭載型のチッパー(木をチップにする機械)を購入。デモ機を持っている会社を探し、一般購入よりも早く・低価格で入手できた。
バイオマスボイラーの導入・同規模の施設でバイオマスボイラーを取り入れている事例が少なかったため、反対もあった全国を視察。導入事例を見て「とにかくやりましょう」と提案。→結果、うまくいき、現在はバイオマスボイラー設置を進める事業も行っている
リゾートエリアの整備・ホテルや別荘の利用者以外が来ない・宿泊者が森とかかわる機会が少ないグランピングやBBQ、フォレストアドベンチャーの施設をつくり、気軽に自然と触れ合える環境に。→ホテルや別荘の利用者以外への集客ができるようになった

「東急リゾートタウン蓼科」は広大な土地なので、一つ一つの事業に時間もお金もかかります。森林整備や循環型エネルギーの創出に対し、補助金や国の制度を上手に活用し、経営を赤字にすることなく継続できていることが伺えました。

きたもっくでは、点をそれぞれ打ち、それが次第につながっていったとのことですが、もりぐらしは逆のアプローチだったそうです。

「地方創生と事業活動を両立させ、グリーン社会の実現によって経済と環境の好循環を生み出す」というミッションを掲げ、それに即した活動をしていくことで、関わる方が増えても軸がぶれることなく継続できているとのこと。

峰の原高原でも、どんな森づくりをしたいか、どんな森林サービス産業を作りたいかという軸をメンバーで改めて確認することも必要だと感じました。

先進事例から峰の原高原の森づくりを考える

講師のおふたりの話を聞き、峰の原高原でも取り入れられるものはないかを検討しました。
なかでも、多くのペンションが抱えている問題が冬期の暖房。ペンション全体を暖めるには灯油代もたくさんかかってしまいます。

バイオマスボイラーを取り入れ、間伐材をチップに加工する機材を用意すれば、雇用の創出や環境に配慮したエネルギー源の創出につながるのではないでしょうか。

また、今はまだ今後の活動のアイデアを出していく段階ですが、長い目で見たときに、点と点をつなぐ視点も重要です。これからの活動で生み出す“点”が、どのようにつながっていくのか、未来の姿を想像しながらアクションしていく必要があることを学びました。


峰の原高原での森づくり、森林サービス産業の創出を一緒に進めてみませんか?

Forest field MINENOHARA(フォレストフィールド峰の原)では、自然や森づくりに関心がある方、地域の森林のために活動をしてみたい方を募集中です。ぜひお気軽にご連絡ください。

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