森をつくる

「森から学ぶ、生きる力」 – やまぼうし自然学校の挑戦

「特定非営利法人 やまぼうし自然学校」は菅平高原を拠点に、子どもから大人まで「森へ入るきっかけ」として自然学習の場を提供しています。「やまぼうし自然学校」の代表理事 加々美 貴代さんに、森林インストラクターとしての活動、学校や地域との連携、そして自然に対する深い理解と教育への取り組みについて、お話しを伺いました。

時代の変遷の中で、少しでも多くの自然体験を

「やまぼうし自然学校の特徴は、もともと森の整備に思いのある森林インストラクターの皆さんからはじまった団体なので、”森のことを知っている”のが一番の強みです。

2002年くらいから学校教育の中で教科以外の学びを行う”総合的学習”が増えていって、移動教室や林間学校を自然教育を行なっている学校外の団体に依頼するという流れが増えました。そこから「やまぼうし自然学校」の活動も森林整備だけでなく、森のことを子どもたちに伝えるという機会が増え、自然教育の事業に大きくシフトしました。」

「学校以外にも、行政機関や、NPO、企業などからの自然にかかわる活動の委託事業もあります。毎年ご依頼いただいている団体も多いですし、自然への関心が高まってきているので新規での依頼も増えています。受け入れ人数は、年間1万1,200人ぐらいですね。」

多様な分野で、自然とのつながりを求める流れがあるようです。受け入れ人数も、とても多くて驚き!

多様な講師とフィールド

「プログラムの講師はやまぼうし自然学校の会員でもあります。菅平高原の近隣の方だけでなく松本や塩尻、群馬や埼玉の方もいらっしゃいます。平日は本業があって働いてる方もいらして、土日に開催するやまぼうし自然学校のワークショップの講師として群馬や埼玉から講師に来る方もいます。」

講師としても幅広い関わり方があるんですね。現在、会員を大募集されているとのことなので、自然とかかわる活動や仕事にトライしてみたい方は、ぜひ「やまぼうし自然学校」の講座に参加してみてください!

「やまぼうし自然学校 指導者育成講座」のご案内はこちらから👇
https://www.yamaboushi.org/program/kouza

どんなフィールドでも学びをつくることができる

「同じ団体からのご依頼でも『ここでやってほしい、あそこでやってほしい』と、フィールドが毎年変わることがあります。自然の見方のバリエーションなど、伝え方のスキルが身につけば、自然から学びを得るのにフィールドはあんまり関係ないんですよね。

何を切り口にするかが大切。例えば、街中の保育園では「園のまわりには自然がない」とおっしゃるけれど、大自然じゃなくても園の植え込みでも十分自然を取り入れた活動はできると思います。その身近にある自然物を”どう捉えるか”、”どう伝える内容に取り入れるか”なんですよね。」

私も自然を体験をするには、登山をしたりスキーをしたり、普段とは違う場所やアクティビティをしないといけないとなんとなく考えていたので、目からうろこでした!

自然とつながるプログラムの生まれ方

とにかく”自然物を使う”こと、”森と関わるもの、繋がるもの”ということを意識して、みんなでプログラムを作成しています。くるみを使ったストラップづくりが人気で、他の自然教室を行なっている団体でも行なっていると思うのですが、最初にはじめたのがやまぼうしだと思うんです。特に特許を取ってないので。(笑)

体験学習が1日の場合、例えば午前は観察プログラムをして午後クラフトをやるとか、2時間から2時間半でできるもので組み合わせられるように考えています。あとは雨の場合でもできる内容のプログラムも用意するのも大事ですね。

自然から学ぶのに、年齢は関係ない

「森で自由に遊びたい!というニーズから”森遊び”を新たに加えました。決まったことをやるのではく参加者が自由に遊ぶ内容です。自由に森の中で過ごす時間って、実は教育的効果というのがあるんじゃないか!?ということでプログラムとして入れてみたら、とても人気のプログラムになりました。

森遊びは小学生向けのプログラムに捉えられがちなのですが、協力したり声掛け合ったりして中学生でもすごく楽しそうにしています。

森遊びの時間の中で、やりたいことが一緒の子ども同士が自然に一緒になって遊びだします。去年も中学生の女の子たちが急斜面に丸太をみんなで運んでいって、そこを伝って上に登ってくる道を作っていました。「何をみんなでやってるんだろう?」と見に来た先生に「先生!登ってきて!」と一緒になってトライしていた姿がありました。

最初は先生との打ち合わせのときに「森遊びって中学生でも大丈夫ですか?」と聞かれますが、自信をもって「大丈夫ですよ」と伝えます。実際にやってみると「すごいですね!」と先生が驚かれます。

子どもの頃に身近で自然に触れる経験が少なくなってしまっているからこそ、森遊びのような体験が大切だと感じます。今は公園の砂場も『汚いから』と言われて、子どもが土に触れることから遠くなってしまっているみたいですね。」

自然教育ってそもそもなんだ?

「この図は総合学習が導入された時に、学びについて「学びのIn・About・For」という上越教育大学の先生が提唱されたものです。幼少期には「IN」の部分、ずっと没頭することとか、夢中になるとか、浸るという時間が特に大切になってきます。

一方で、子供の頃から大人になっても根底でずっとずっと絶えることがないものでもあるので、そうするといかに学ぶ意欲を継続するかも大切ですね。

深い学びのための入り口が森で、森へ入ったことによって”自分たちはどんなことができるのか”、”知りたいことはなんなのか”、『やまぼうし自然学校』が森で行っているのは主体的・対話的なプログラムを通して、そんなことを伝えることなんです。」

「学校の先生と打ち合わせをしているときに『前にも同じプログラムやったので今回は別のものにしたい』と言われることもあるけど、仮に同じことをやっても、子どもは成長して感じ方も変わっているので『前に来た時は思わなかったけど、今度来たらなんか違う発見があった』と気がつくこともたくさんあって。例えば、昔読んでいた本を、時間をおいて読み返してみると感じ方が違うように、自然に対する体験もそうなんだろうなって。」

自然からの学びは分野も超える

「例えば水棲生物調査のプログラムでは、実は理科の授業の読み替えもできるんです。

先日、”森づくり体験”を行った学校では、当日、英語の先生と国語の先生もいらっしゃいました。今、英語の教科書に林業が、国語の教科書には”森は海の恋人”というテーマが出てくるそうなんです。

学校での英語の授業では『前に森でやった体験のことだね』ということを英語で振り返りができる。国語では教科書で取り上げられているテーマとして、”ここで森を整備するのはどういう意味があるのか”、”森は海の恋人”という意味は”森が荒れると海も荒れて、牡蠣の養殖もダメージを受ける”ことになり、『今、自分達がしていることは、海の保全にもつながるんだよ』ということが教えられる。」

学校の教科では縦割りになっていることが、森のなかでは全部の教科書になるんですね。

大人と都会に対してのアプローチも

「東京在住の方向けには、年配の方向けの講座がすごく人気です。

副代表が東京にも1人いるので『都心エリアでも講座を開こう!』ということに。その副代表中心に都心で森林インストラクターの講座を受けて会員になった方たちが講師としています。だから森を学ぶコースがいくつかあるんですよ。

東京は長野県以上に公園が整っていて、樹木観察とかをするのが面白くて、適しているフィールドがたくさんあります。なので、最初は都内の森巡りからスタートしました。

そしてリピーター率がすごく高いんです!新たな受け入れが少なくなってしまうので、ステップアップの講座として「街の木巡り」というコースも作ったんですね。

参加者の平均年齢にしたら70歳ぐらいかな。学ぶ意欲が高く、あとは普段から歩いてるので足腰が強い方が多いです。自然とか樹木のこととか、植物のことを知りたいという、共通の趣味を持つ仲間ができるそうです。」

見方次第で、どこでも自然からまなぶことができるというのは都会でも同じですね。

自然教育の課題

「自然からの学びを得る機会に対する価値として、そこにもっとお金が回っていく価値観や仕組みが一般化されないと、講師や従業員など、自然を伝える人材が増えません。そうすると自然の良さを伝える機会が提供できないという悪循環になってしまうと思います。

でも昔に比べたらだいぶその価値観は変わっては来ています。体験学習の料金を少し値上げした経緯がありますが、それでも依頼がたくさんあるのは、自然体験への価値観が少しずつ変わってきているのだと感じます。」

自然を仕事に、がもっと広がるように

「コロナの影響で、都心と地方とで二拠点で生活したり仕事をされてる方がすごく増えたと思います。

オンラインでも仕事ができるようになって生き方の選択肢が増えた一方で、外に出て自然の中で仕事ができるという選択肢もやまぼうし自然学校にはあります。ダブルワークで自然教室の講師をする人も多いので、そういう関わり方をしたい!という方も大歓迎です。」

そんな加々美さんの幼少時代のお話も

私の祖母は長野県生坂村に住んでいました。家の中の仕事が嫌いで、畑仕事や山仕事、山菜取りなどを積極的に行う祖母の手伝いをよくしていました。よく覚えているのは、祖母の牛乳配達の仕事のお手伝い。一輪車に牛乳瓶を乗せて運び、配達先の家に着くと『あそこは2本持だよ』と言われた私は牛乳瓶を2本持っていき、代わりに空瓶を回収する、ということが楽しかったです。

また、小さい面積ですが山を持っていて、その山に父と下刈りにも行ったりも。3人兄弟でしたが、喜んで父に一緒についていくのは私だけだった(あとは弟が渋々)ので、”自然が好き”という気質は持って生まれたものなのかなと思います。

幅広い森の知識、林学を学ぶ大学時代

「大学で学んだ林学はとても楽しかったです。林学は生態系もあるし、環境、気候、水利、河川のこともある。道路や林道も作らなきゃいけないから、土木のこともある。また社会学的な観点からは山村に住む人たちの文化や、林業としての生計を立てる技術なんかも、森全部が林学に含まれるているんですよ。本当に広く浅い学問ですが、森に関わる多くの要素を学ぶことができました。

卒業後は、東京の原宿にある造園会社に就職。そのあと安曇野に戻ってきて、高校の産休に入っている先生の代行をしていました。

森林インストラクターという資格は、私の大学の恩師が林野庁と一緒に作った制度なんです。その先生から、大学時代に『こういう資格があるけど難しいからみんなにはまだはやいかもね』と言われてて、でもいつか取りたいなとは思っていました。

安曇野に戻ってきてからふと新聞を見ていたら”「やまぼうし自然学校」で森林インストラクターの養成講座の第1回を行いました。”という報告記事が出てたんです。『長野でもやってるんだ!』と思い、問い合わせたのが、「やまぼうし自然学校」との出会いでした。

森林インストラクターの養成講座を受講したことがきっかけに、次の年でそのちょうど高校での仕事も終わるタイミングだったので、そこからここで働き始めました。」

森が加々美さんを呼んでいたのかもしれませんね!自然がつなぐ縁を感じます。

自然体験を、やまぼうし自然学校ではじめてみませんか

インタビューを通じて、自然との関わり方や、それを通じて学ぶことの大切さについて、深く考えるきっかけになりました。

自然との暮らしや働き方に興味がある方は、ぜひやまぼうし自然学校の講座にトライしてみませんか?

特定非営利法人 やまぼうし自然学校 長野本校

〒386-2204
⻑野県上⽥市菅平⾼原1223-5751
TEL:0268-74-2735
FAX:0268-74-2795
E-mail:contact@yamaboushi.org

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NPO法人 やまぼうし自然学校 森でつながる自然体験 

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